8.04.2021

第20話

2000.11

2ヵ月くらい経つとバンクーバーの生活にも色々と慣れてきた。

しかし未だホームステイの生活には馴染みきれていなかった。そんなある日の夕食の用意の時間。

ベースメントから用事か何かを済ませたアンドリューがキッチンに戻ってきた。「ん?この匂いは?」と思った瞬間ウェンディがアンドリューを叩くような仕草をした。つまりアンドリューはクサを吸ってきたところだった。そのやり取りを見て思わず「何でウェンディが怒ったか分かったよ」と言った。すると夫婦揃ってこう言ってきた。

「Welcome to Vancouver 」

流石にそんな返しは予想していなかった。思わずみんなで笑った。これをきっかけにこの2人とグッと距離が縮んだ。


ある晩、これから泊まりに行ってくるとアンドリューに伝えると、ちょっと待っててと言い自室に行った。そして戻ってくるなりコレを持って行きなとジョイントを1本手渡してきた。オレはかなり驚いたが彼はニッコリと頷いた。ソレはとんでもなく綺麗に巻かれていた。

基本的にクサを許容するホームステイなんて聞いた事ないしほぼ皆無だと思う。オレはある意味このホームステイでラッキーだったのかもしれない。実際クサに対して頭の片隅に罪悪感があったが、まさかホストファザー、マザーが受け入れてくれるとは思いもしなかった。

ココはバンクーバーでコレは日常の事なんだと思った。

何か抱えていたプレッシャーが軽くなった気がした。


この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第19話

 2000.10

Bad Religionのライブから間もなく、No Use For A Nameが来る情報を得た。

これにはBad Religionよりもテンションがアガった。

BRよりNUFANの方が好きだったし、観れるチャンスはそうそう無いと思っていた。しかもPulleyも一緒に来るって事がさらにアガる要因だった。実際このバンドの方がレア度が高くどんな人達なのかもわからなかった。

この当時、インターネットは今とは違い全世帯に普及されてはなかった。ネットに繋がったとしてもダイアルアップ方式で鬼の様に通信が遅かった。実家には当然PCはなかったし、日本はより普及が遅かったと思う。そんな中オレが好きなバンドの情報はCDのライナーノーツやアングラな雑誌くらいしかなかった。BRやNUFANはライナーノーツに写真が載っててなんとなく誰が誰かってことは分かっていたが、Pulleyに関してはそれが無かった。

そんなPulleyは曲のスタイルが他のバンドとは違い、クルーズ感というか横ノリ感がカッコよく好きだった。

ライブにはタケを誘った。

場所はスカイトレインのブロードウェイステーションの近くのシアターみたいな所だった。よく海外のバンドなんかが演ってそうな雰囲気の所だ。

とりあえず開場前に裏手にある駐車場のような場所に行きタケとジョイントを吸った。

もしかしたらそこには彼等のツアーバスが停まっていたかもしれない。が定かではない。

かるく飛んだところで入場した。この時手持ちのカメラを持っていたが写真を撮っていいのか分からなかったので手荷物に預けた。結局その必要は無かったから少し後悔した。


オープニングアクトは確か地元の3ピースバンドで多分オレと同じくらいの年齢だったと思うがあまり記憶に残ってない。タケがライブ終わったあとにCDを買ってサインをもらっていた。なんてバンド名だったろうか。

ライブ中どこからともなくマリファナの匂いがするなと思っていたら物販のヤツらがジョイントを回していた。それを見てタケと笑った。

2番目はいよいよPulleyだ。

ステージにはボーカルのScott、ギターのMike、そしてJim Cherry、ベースのTyler、ドラムのTonyがそれぞれ登場してきた。そして5人が囲んで何かを話していたのか円陣的な物だったのかをやってそれぞれの持ち場についた。

オレはこの時点でかなりテンションがアガっていたしそれとは裏腹にドキドキしていた。

1曲目はWorking class whore

ギターのイントロが始まったとたん会場のボルテージが一気に頂点に達した。

そこから終始その状態のまま数曲続いた。なんといってもTonyのキックしているバスドラの音圧がオレの身体を圧倒し硬直させていた。緊張状態もキープしていたからか本当に身体が動かなかった。あの広い開場であのキックの音圧を体感したのは後にも先にもこの時しかない。終盤に差し掛かったところでCashed inのイントロが始まったとき全身にゾワゾワっと鳥肌が立った。この時までこの曲はそこまで好きではなかったがライブを観て一番好きになった。

そして最後はSoberbeahで終わった。

ライブ中Scottは缶ビールを飲んでいたし、途中でMikeの誕生日を祝ったりしてステージ上のメンバーはリラックスしていた。にもかかわらずあんな演奏をするもんだからこの時を境に超ファンになった。

そんな圧巻のパフォーマンスを見て異様に疲れてしまった。ここだけの話、NUFANは今日はもういいって感じだった。

という訳でトリであるNUFANはそんなに印象に残らなかった。が、Room 19の時みんながシンガロングしていたのはよく覚えている。


ライブ終了後、何故かTylerが物販の片付けをしていたので思い切って話しかけた。

片言にI really admire って言ったと思う。他に何かなかったのかって感じだけどとにかく感動した事を伝えたかった。

買ったキャップにサインもらえばよかったな。


この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。







6.29.2021

第18話

 そもそもどうやってクサを仕入れていたかというと、タイジが働いていたMr.Washというカーウォッシュ店の従業員から買っていたからだった。


タイジの彼女のレイコは、ナオコとアパートでルームシェアしていた。

ナオコは授業の合間によく卓球をしていた。彼女は結構前からこの学校に在籍してる古株で、そのせいか学校仕切ってる感があってちょっと苦手だったというのが最初の印象だった。その卓球の相手はカズマという関西から来ていたヤツでコレもまた古株で「困ったらオレになんでも聞きいや」みたいな上からの感じが苦手だった。

このカズマはちょっと性格に難があって、周りの人間のある事ない事をベラベラ喋るヤツでどうしようもないヤツだったから特に関わりを持たなかったが、ナオコは実は意外と話せる女子でタイジと仲良くしていたせいかわりとすぐ友達になった。

それでこのナオコとレイコのアパートがたまり場になっていった。


オレのホームステイ先はノースバンクーバーの奥の方にあってダウンタウンに出るまでバスかもしくはバンクーバー港を縦断するシーバスで40〜50分はかかっていた。ダウンタウンのバークレーストリート沿いにあるそのアパートは、帰りのシーバスに乗るにも少し歩く必要がありちょっと遅い時間になると帰るのが非常に面倒だった。学校終わりにそこに寄り道していくと必ずと言っていいほど飛んでいた為よく寝泊まりさせてもらっていた。ホストファザーに今夜は泊まるってよく電話していたと思う。そしてタケもまたホームステイ先が遠かったから一緒に泊まることがあった。

ちなみにナオコの実家は中華定食屋さんでそのためか非常に料理が美味かった。それもまた泊まりたくなる要因だったと思う。


この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


6.10.2021

第17話

 ダウンタウンにある学校を出て街を歩いていると、どこからともなくクサの匂いがする事は日常茶飯事だった。

後から知るがバンクーバーはクサに関しては寛容な地で、ガン末期患者なんかにも勧めているくらいだった。

ヘイスティングストリートにBrant Brosというクサが吸えるカフェがあって、たまにタケと行っていた。ある日そのカフェに行くと首からボングをぶら下げている日本人が話かけてきた。彼の眼は充血していてすでに飛んでいたのは一目瞭然だった。どうやら熊本からやってきたらしいが訛りがひどく何を言っているかさっぱりわからかったが30歳という事だけはわかった。とりあえず相槌をしていたけどタケが笑いを堪えながら、この人何喋ってるんですかねって言っていた。

その後彼と出会う事はなかった。


この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。





第16話

 2000.10

オレが海外に行きたかった理由の一つに好きなバンドのライブを観たいというのがあった。かと言ってバンクーバーに観たいバンドが来るかはわからなかった。本当はメルボルンに行って大好きなBodyjarを観まくりたかったんだけど。

バンクーバーにはGeorgia Straightというフリーペーパーがあって、巻末に色んなアーティストのライブスケジュールが載っていた。

そこで最初に目にしたのが9月13日のStrung Outのライブだった。

まだバンクーバーに来て間もなく、チケットの取り方にとまっどっているうちにソールドアウトになってしまった。という苦い経験をした。


そして10月あたまにBad Religionが来るという情報が載っていた。

アルバムNew Americaのツアーだった。

コレは絶対に見逃せないと早々にチケットを買いCDも買った。タイジもライブに行きたいという事だったのでレイコも誘って3人で観に行った。いや、タケもいたかも…


最初に知ったアメリカのパンクバンドはBad Religionだった。タイジが通っていた高校のヤツらが聴いていてそれで知る事になった。メロコアと呼ばれる音楽のブームがアングラで流行り出していた。結局メロコアにハマっていったのは地元でオレだけだったんだけど。

まさか初めて観るバンドがBad Religionになるとは思わなかったがこれも何かの縁だったのだろうか。

場所はダウンタウンのグランビルストリート沿いにあるライブハウス、というかもっと大きな規模でバルコニーもある会場だった。人生初めてのライブにワクワクしていると(それまでに観たライブはタイジの友達のやってるNOFXのカバーバンドだけだった)どこからともなくクサの匂いが漂ってきた。海外って、いやバンクーバーってそういう所なのかなと日本では絶対に味わえない開放感を感じるシチュエーションにテンションが上がった。

オープニングアクトはIgniteというハードコアバンドだった。

このバンドの演奏中、外人達がウジャウジャとモッシュしたりして圧倒されていたところ、ヒートアップしてドレッドヘアのヤツとデカイヤツが殴り合いになっていてた。

外人の迫力をビシビシ感じるなかBad Religionが始まった。

当時はアルバムのライナーに載っている情報しかほとんどなかったからメンバーはどんな人達なのか想像もつかなかった。ボーカルのGregは身振り手振りが面白く、ベースのJayにちょっかい出したりしていた。この時すでにギターはBrettではなくBrian BakerでGreg Hetsonとツインギターだった。ああ、そういえばタケがあのドラム(Bobby)デブなのにめっちゃ叩きますねって言ってたからタケもいたんだな。

そういえば後日タイジがGregのマネをしていたな。


この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

6.08.2021

第15話

2000.9

タイジと同時期に入学したヤツらには同世代が何人かいたが、オレが入った頃にはもういなかった。ずっと学校に居座ってるヤツもいたけど、大体のヤツらは3ヶ月間語学学校に通ってその後は各々好き勝手やっていて誰が何をしてるとかそんな事は知らなかった。そもそもみんなそれぞれの理由があって来ていたわけだけでたまたまそこで出会っただけだった。

9月半ばくらいにボンという1つか2つ下のロン毛のチャラいヤツが入ってきた。しかし彼は一旦帰国してまたここに来たという事だった。つまりタイジと面識があった。
そして彼もまたクサ好きだった。

タイジも1年前にLAに遊びに行って1ヶ月間クサ中心の生活をしてソレが好きになってバンクーバーに行こうって決めたらしい。まあ理由はそれだけじゃないだろうけど。

そしてタイジ発端でみんなでクサパーティーをしようって事になった。まだオレはそこまでクサを受け入れてはなかったんだけど…
その日の夜、日本食屋でみんなでワイワイ過ごした後、ロブソンストリートを下りながらタイジのアパートへと向かった。オレは罰ゲームで食べたワサビ寿司が胃の中でグルグルしていて気持ちが悪く胃をさすっていた。その時「どうしたの?生理?」と突拍子もない事を言ってきたのはケンだった。彼はタイジと同時期入学でオレはこの時初めて会ったが同い年で面白いヤツだったからすぐ仲良くなった。

タイジのアパートについて早速ジョイントを回した。誰がいただろうか、オレ、タイジ、ケン、ボン、タケ、レイコ、ナオコ。みんなでレンタルした日本のホラー映画を見た。
何故かわからないがオレは後にも先にもないくらいぶっ飛んでしまった。天と地が反転してどうにもならなかった。ホラー映画が怖いのかよ〜なんてチャカされたけどそうゆう事ではなかった。



バンクーバーに来た当初はクサなんてやらねーぞなんて気持ちだったが結局どんどん触れて行く事になろうとは知る由もなかった。

この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

6.02.2021

第14話

 2000.9


語学学校には日本人が結構いて、自分より(当時22歳)年上や年下の男女が日本各地からやってきていた。

オレが入学してちょっと過ぎた頃、タケってヤツが入ってきた。年齢が19歳でちょっとヤンチャな雰囲気のあるヤツだった。

タケは高校の時にニュージーランドに留学した経験があった。そのため普通より英語が喋れた。ニュージーランドに行ったのも親が彼に手をつけれなくなって仕方なく送還したそうだ。

そしてタケは無類のクサ好きだった。(ちなみにオレらの間ではクサと呼んでいた)

ここでタケとの出会いがこの留学に大きく関わる事になる。


この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


6.01.2021

第13話

 2000.9


通っていた語学学校はダウンタウンにあって、そこの人種比率は6〜7割くらい日本人で、残りは韓国、台湾、メキシコ、ブラジルからの留学生だった。

学校にいる時はみんなそれぞれそれなりにコミュニケーションを取るんだけど、学校をでれば日本人同士で街に繰り出したりする事がほとんどだった。

オレは最初の1ヶ月は学校とホームステイ先を直行直帰するような生活だった。

ある日、タイジが学校に遊びに来た。(タイジは3ヶ月くらい前に卒業していて洗車屋で働いていた)

半年ぶりの再開だった。

それから街を歩きながらこの半年のタイジの話を聞いた。大体は彼女のレイコへのグチだったような記憶だけど。

この時をきっかけにたまに遊ぶようになった。


この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


第12話

 2000.9


まだバンクーバーに来て1ヶ月くらいしか経っておらず未だに生活に慣れていない頃、アンドリューがスキー場の面接を受けに行かないかと言ってきた。

オレは一応ワーキングビザで来ているため、働ける所があれば働きたいと言っていた。

アンドリューも昼の仕事とは別に受けようと思っているという事らしい。

突然の提案に、いやいやオレの英語力で受かるワケなくね?と思う反面、何故受けないんだい?というスタンスに拒否する事もできず仕方なく一緒に面接に行く事になった。


面接は夜のスキー場で行われていた。

(ちょっとうる覚えだが、確かグラウスマウンテンという所だったと思う。ホームステイ先のウエストバンクーバーからバスで数分くらいの近さだったような)

若いお兄さんの面接官だった。何を聞かれたかさっぱりわからなかったしどう答えたかも覚えていない。今思うと無謀だったと思うけどきっと何かしら面白い経験になったとは思う。

当然合格の電話は無かった。

ついでにアンドリューも。


この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。



第11話

2000年 8月31日
ダウンタウンのホテルを出発し20〜30分後、ノースバンクーバーにあるホームステイ先に到着した。15〜16時だったろうか。
ピンク色の家で玄関は階段で中2階に上がるような形だった。迎え入れてくれたのはアンドリューというホストファザー、身体の大きいウェンディというホストマザー、そしてこれまた7歳のわりに身体の大きい息子カイルだった。
オレの事をずっと待っていたけど全然現れなかったから帰ってしまったとの事だった。
そりゃそうだ、お互い携帯電話持ってたわけじゃないし連絡の取りようがないんだから帰るよな。

アンドリューは優しい人だった。後から聞いた話だけど、ホームステイ先がハズレってのはよくあるらしい。ホストファザーが変わりものとか家が汚いとか。ホストファザーは良い人だし、立地も良かったしで当たりを引いたみたいだった。(後に本当に当たりだと思わせる出来事が起こる)どちらかと言うとホストマザーの方がちょっと怖い印象だった。
カイルには日本から持参したポケモンの腕時計をあげた。こっちでもポケモンがブレイクしていたから喜んでくれた。


そういえばスープって言う名前のジャックラッセルテリアもいたな。




この家には、名前は覚えてないけど1〜2歳下の日本人のわりとカワイイ女子と、もう1人日本人で確か19歳の身体がデカイわりに大人しくて存在感のない感じのヤツがホームステイしていた。
ルールとして家の中では英語オンリーだったけど、いつだか日本人だけで夜な夜なコッソリ話した事があった。[家の作りが日本とは違って中2階(多分ここが1階とみなされていた)みたいな所にリビングとキッチンがあってその奥にホストファミリーの寝室。そして地下に2部屋とランドリールーム、それと1人用シャワールームがあった。オレは2階の屋根裏部屋みたいな所だった] その屋根裏に行く階段で夜な夜な話をして少し仲良くなったけど2人とも短期語学留学で来ていたからわりとすぐ帰国してしまった。
最初の1ヵ月は自分との葛藤、というか色んな事がうまく行かないとかで軽いホームシックに陥ったりした事があってこの会話で少し救われたのを思い出した。
そうそう、ちょうどこの頃Red Hot Chili PeppersのCalifornicationを現地のCD屋(確かA&B Soundだったかな)で買ってよく聴いてたんだけど、今もこのアルバムを聴くとこの頃の憂鬱感を思い出す。


この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。