5.31.2020

第10話

2000年 8月31日
いよいよ誰も迎えに来てないことに納得せざるを得ない状況になった。
とりあえずトイレでウンコをして気持ちを落ち着かせよう。
初めての海外のトイレ。扉は日本の物と違い膝下が見えるくらいの大きさでかつ広い。それすら真新しくて感動した。
用を足してスッキリすると割と冷静になっていた。ホームステイ先の住所があるし、無料でおいてある地図を取って先ずはインフォメーションカウンターみたいな所で聞いてみよう。それしか方法ないし。

そこには中華系の若い女性がいた。住所の載った紙を見せ片言の英語で話かけると親切に説明してくれた。だがオレにはチンプンカンプンだった。サンキュー!と分かったふりをしてそこを離れた。ヤベエ、分かんねえ。何言ってるか分かんねえしどうしたらいいかも分かんねえ。その辺を数分ウロウロしたあともう一度その女性の所に行って聞いてみた。
するとその女性、いやその女はかなりキレぎみに「さっき説明しただろうが!」的にまくしたててきた。

うわー、キレてる。
どうしようかとちょっと焦りが出てきたと同時にコレが海外の洗練かと少しながらワクワクもしてきた。
このエピソードはきっと最後に笑って話せるなと。

あの女がバスに乗れと言った事だけは理解できたからとりあえずバス乗り場に出た。
だがどこ行きかさえ分からなかった。
すると近くにおばあちゃんが1人立っていた。
勇気を振り絞って聞いてみるとおばあちゃんは親切に○○番のバスに乗りなさい、後は運転手に聞くといいと説明してくれた。

ああ、捨てる神あれば拾う神あり。無事にバスに乗る事が出来た。
運転手さんも親切だった。降りる時がきたら教えてあげると言ってくれた。

30分くらい経ってデカいホテルのロータリーに到着すると、ココで降りてタクシーで行きなさいと説明してくれた。
そっか、最初っからタクシーで行けば目的地に着くじゃんと思ったができるだけ近くまでバスを使えば安くすむよな。あの女も親切だったんだな。

タクシーを拾いホームステイ先まで向かった。



この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第9話

2000年 8月31日
十数時間のフライトを経てようやくバンクーバー国際空港に到着したのは確か昼過ぎだった。無事着いたとホッとしたところに待っていたのは長蛇の列のイミグレーションだった。

そうそう、割愛したわけじゃないがワーホリのビザが降りてからやらなければいけなかった事の一つに語学学校の選択があった。もちろん誰かが紹介してくれる訳でもなく、地球の歩き方という本の中に掲載されていた数十件の学校の中から一つ選んで直接電話なりでリクエストしなければいけなかった。これは義務ではなく1つの方法として最初に語学学校に通うという選択肢があるわけだけどもモリカワにも先ずは語学学校行った方がいいと言われていたからそうしたワケだ。
なんとなくココかなという学校に決めようと思っていた時にタイジと電話をした事があった。その学校はヘイスティングストリートというところにあるらしいんだけどって話をしたら、タイジの彼女(バンクーバーで早速作りやがった)曰くそのストリートは危ない所で有名だからやめた方がいいという事だった。それなら私が通ってる学校に来ればいいじゃん的な感じだった。そこはタイジも通っていたがもう辞めていたからまあそれでもいっかって感じでその学校にする事にした。
ここで楽だったのがその学校は日本人女性校長かつ、受付も日本人女性だった。だから普通に電話でやり取りする事ができた。理想としてはノージャパニーズでハードな環境に身をやる事だったんだけど。まあさておき、その学校といつ到着していつから通うとかのやり取りをした後、ホームステイ先の情報が手紙で届いた。そこにはホストファミリーの事や何時に空港に迎えに来るという情報が載っていた。
その手紙によると飛行機到着時刻辺りに迎えに来るって事だった。
1〜2時間後ようやくイミグレを通過した後さらに待っていたのが預け荷物だった。これを手にするまでにもだいぶ時間がかかった。



ようやくそこから出るとプラカードみたいな物を持った人達が沢山出迎えていた。
プラカードには名前が書かれていてそれぞれ合流しては消えていった。
結構くまなく探したけどオレの名前は誰も持っていなかった。

こりゃ困ったぞ。



この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

5.30.2020

第8話

2000年 8月31日
出発の日。
ヤッピとカワがわざわざ仕事を休んで空港へ送ってくれるって事で家に迎えに来てくれた。家を出るとき母親が見送った。車の中で「お母さん泣いてなかった?なんか気まずかった〜」と笑いまじりでヤッピが言った。まあ1年間帰らないつもりだしましてや海外だから母親というものはそういう感情になるのかもなぁと思った。
空港に着いてからの事はよく覚えてないけど、別れ際に、バンクーバーに遊びに来なよなんて言ったかもしれない。

あのときのタイジみたいに緊張するかと思っていたけど意外にリラックスしていた。



18時
緊張したのは飛行機だった。初めての海外、ましてや初めての飛行機だった。ちょうど主翼の見える座席でそれがバタバタ揺れるもんだから折れるんじゃないかとマジで不安だった。たまたま隣には日本人女性が座っていたから会話で気を紛らせる事ができた。その女性は確か31歳って言ってたと思うけど22歳のオレにとっては見た目がそれよりも随分歳上だなと思った。
やがて外は暗くなり主翼がみえなくなるといつの間にか不安もどこかへ消えていた。



現地時間9時
経由地のポートランドに到着すると日本人はオレとその女性くらいだった。とうとう外国の地に来たんだと。デルタ航空の乗務員はみんな外人だったし乗客も外人ばかりだったけどまだちらほら日本人がいた為か少し気持ちにゆとりがあった。空港の売店で飲み物を買ってその女性ともそこで別れ、いよいよ日本人はオレ1人になると緊張が押し寄せてきた。セスナ機への乗換えで外に出ると日本とは全く違い肌寒くさらに緊張を高めた。座席に着いて待っていると隣にさっきとは違う日本人女性が座った。眉毛の濃い子でその感じが中学の同じクラスにいた子にそっくりだった。
フライト中その子と会話をしているうちに緊張は解けていった。




この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

5.18.2020

第7話

2000年 7月
モリカワがLAから帰ってきた。
オレは英語勉強の真っ只中だったからしっかり教わろうと思ったいた。

ある晩、モリカワの実家の自室でマンツーマンで教えてもらっていた。
そこに、何処で手に入れたか知らないがケンタがジョイント持って遊びにやってきた。
おいおいそんな事したくねーよと思ったがモリカワは全然ノリ気だった。
で結局その場の流れでそれを回した。



ノリ気ではないオレの気持ちとは裏腹にぶっ飛んでいた。
英語の勉強をしなければと思っていたがもう元に戻れるわけがなかった。モリカワはテキストを開いて、I’m homeとはどうゆう意味でしょうと言ってきた。こんなどうしようもない質問からしてもう英語の勉強はどうでもよかったんだろう。そして「アイムホぉ〜む、アイムホぉ〜〜む」と鼻の下を伸ばしながら変な言い方を楽しんでいた。そこにワンピースを読んでいたケンタが横から「モーム!モーム‼︎」と割って入った。モリカワは少し考えて「そうだねぇ」と言った。それを見てオレは1人で爆笑した。モリカワが慌てて「シーっ!お母さんに怒られちゃうよっ!」ってもっと怒られるような事してるだろって。
会話なんてまともに成り立たず夜は更けていった。




この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

5.10.2020

第6話

2000年 1月
カズ、ケンタ、カツミとオレで片道600kmかけて蔵王に一泊でスノーボードをしに行った。
今まで経験した事のない一面の銀世界、パウダースノー、樹氷とブリザード。
行き帰りも含め最高に楽しい時間を過ごした。
バンクーバーでもスノボー出来たらいいなと期待した。


3月
タイジがバンクーバーへ向かう日が来た。
この日は珍しく大勢集まって空港まで見送った。タイジは異常なほど緊張していていつもの様に冗談なんか言ってこなかった。よほどこの留学に人生かけていたんだろう。

そして無事旅立った。




この頃オレは風邪を引いて喉を痛めた。マイルドセブンスーパーライトの煙が吸えないくらいに。そしてコンビニで買ったタバコを封を開けずにただなんとなく1日吸うの辞めてみようと思った。そんでそのまま禁煙に成功した。スムーズに辞めれたのはきっと元々タバコが体に合わなかったんだろう。
タバコを吸うきっかけなんてガキがカッコつけるためのもんだ。オレが吸い初めたのは14歳、中3の夏休みだったと思う。周りのヤツらはすでに吸っていたし、多分悪ぶりたかったんだろう。最初はうまいなんて思わなかったけどいつの間に抜け出せなくなっていた。そうして7年間肺を痛め続けてきた。

最後に買ったタバコは部屋に飾った。



この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




5.07.2020

第5話

ヤッピが働いている工場にフィリピン人のアリっておじさんがいてどうやら受験生に英語を教えてるって事で紹介してもらう事になった。中学英語を勉強中のオレにはまさにうってつけだった。とにかくもっと英語を身近にしなければと思っていた。
住所を教えてもらい1人でアリの家に行った。彼は普通のアパート住まいだったけど自分にとっては初めての異国に触れた瞬間だった。でもアリは日本語も話せるしオレは英語を話せないから結局会話は日本語だった。もどかしかったけどどうにかして英語に触れたかったからその何日か後に家庭教師みたいなものに同行させてもらった。
行ってみると相手の中学生はテレビゲームの真最中だった。アリはちょっと注意したが中学生は無視してゲームをしていた。授業時間が終わるまで。
期待して想像していた物とは違い全くもって無駄な時間だった。オレはただキレるのを我慢していただけだった。英語力じゃなく少し忍耐力がついたのか?

それっきりアリと連絡を取る事はなかった。



1999年 12月31日
サイトウくんの家で何人かで過ごしていた。誰かがどこからか手に入れたジョイントを回しながら。世間はミレニアムとか言って盛り上がっていて、それをテレビで見ながら年を越した。
あー、いよいよ今年バンクーバーに行くんだな。



この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

5.04.2020

第4話

1999年 7月
モリカワがLAから一時帰国してきた。毎年夏休み頃になると必ず帰って来ていた。
この頃の記憶が曖昧で、いつワーホリの申請をしたか覚えていない。
でも9月頃には確かローンも払い終わっていたはずでそこから1年間、車にかかっていた毎月の金額をワーホリの資金として貯めたからおそらく7月から9月の間にカナダ大使館に申請していたと思う。モリカワの英語力を借りて。
まあ通過するかどうか不安はあったけど無事ワーキングホリデービザを得ることができた。

そういえば、結局オレもバンクーバーに行く事にしたんだけど、最初はオーストラリアに行こうと思っていた。タイジと被るのは避けたかったし、メルボルンにはオレの1番好きなバンドBodyjarが居たからだ。だけどモリカワにオーストラリア英語はかなりなまってるし、どうせ覚えるなら発音がキレイなカナダに行った方がいいと言われバンクーバーにした。結果的にそれで良かったと思う。

で、その肝心な英語はモリカワのアドバイスで中1から中3の英語を勉強したらいいと言われた。高2くらいから洋楽ばかり聴いていたけど歌詞を読む程度で意味は理解していなかった。その頃からもっと英語に興味を持っていたらと思ったけど、きっと高校生の自分には必要のないものだったんだろう。

出発は2000年8月31日と決めた。



この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第3話

1999年3月の終わり頃にはスノボーのシーズンも終わり週末も暇になり始めていた。
月曜から土曜まで仕事して(会社は隔週土曜休みだった)週末を迎えるというただ何の変化もない日々を過ごしていた。
この先どうしようという思いの中、そのワーキングホリデーとやらに興味を持ち始めていた。このままこの何も無い小さな町に居続ける事がただただ不安だったし、仲の良い友達とも毎回毎回やる事に変化も無くましてや刺激なんて無かった。何かを変えたかった。環境なのか自分自身だったのかは分からないけど。

タイジは来年の3月中にバンクーバーに行く事が決定したそうだ。
そしてなんとなく焦りが加速した気がした。



この物語はフィクションです。登場する人物等は架空であり、実在のものとは関係ありません。